ウォー・ドッグス(ネタバレと感想)

ウォー·ドッグス(2016)
監督:トッド・フィリップス
出演:ジョナ・ヒル/マイルズ・テラー/アナ・デ・アルマス/ブラッドリー・クーパー 他
 
イラク戦争の頃、アメリカで実際に起きた軍事武器の詐欺事件を扱った社会派ドラマ&コメディ。
 
★★★☆☆(3.4)
 
«あらすじとか前知識とか»
デイビッド(マイルズ·テラー)と幼馴染のエフレム(ジョナ·ヒル)は地元の友人の葬式の場で久しぶりに再会する。エフレムは転職を繰り返し、現在はお金持ちを相手にマッサージ療養士の仕事をしており、デイビッドは武器の転売をしているという。マッサージ師では収入もままならないと、老人ホームを相手に高級シーツの販売を始めるがうまくいかず、そんな最中にデイビッドと出会う。
武器売買なんて自分には関係ないと思っていたエフレムだったが、彼女のイズ(アナ・デ・アルマ)の妊娠もあり、子供を養うためにもとデイビッドの会社で共に事業を拡大していくが...。
 
 
※以下ネタバレを含みますので注意※
 
 
実話が元になっていて、一度上手いこと成功したがために、甘い蜜を吸い続けようとした結果...というお話。
「ハング·オーバー」の監督作で非常にテンポよく進むことと当時の情勢に詳しくなくてもわかり易く出来ていた。
(とはいえもちろん時代背景を理解している他ない。もっと勉強しなければ…)
 


オープニングのエフレムの語りで「戦争は経済行為そのものだ。例えば兵士1人の武装に17,500ドルがかかっている」「イラク・アフガニスタン紛争でいえば200万人が派兵されている」との話があるが、それだけの人数やお金が動いている以上、今回のエフレムたちのように穴を見つけて稼ぎを働こうとする人物が出るのは世の常だというのも少し納得してしまう。
 
 
 
一見冴えない雰囲気だが人の良さそうなデイビッドと、いかにもワルですといった風貌のエフレムの2人がバディを組む。
お金や家庭の問題から、エフレムの事業を手伝うことにしたデイビッド。「ここまではには違法"では"ない」との判断で深入りし、ノウハウを覚えアメリカの国防総省相手にも儲けを出してゆくことでどんどん欲が出てきてしまう。
 
クリーニング店のラルフが影の出資者というのもミソ。
序盤のベレッタ銃の取引で早速大口の取引を逃しかけ、「契約は正当解除」(二度と契約が出来なくなることを指す)と言われながらもとっさの機転で正当解除は免れ、大金を手にする。
このシーン、武器禁輸によるトラブルを回避するため、ヨルダンからバグダッドまで車で向かうことになったのだが、「死の三角地帯」を抜けるシーンはアクション風味もある。運び屋で運転手のマルボロが検問を抜ける賄賂に渡すタバコのカートンがマルボロだったことにはクスっときた。ヨルダンでの仲介役の通訳が11歳の少年というのもまた良い。
 
 
その後、狙いのアフガン取引を成立させるため、大量の武器の輸入先を探しにラスベガスの防衛見本市に赴く2人。
小さな会社で力もお金も足りない自分たちには無理だと悟ったところに、業界でも有名な伝説の武器商人ヘンリー(ブラッドリー・クーパー)に声をかけられ、非常に美味しい弾薬の大量輸入話を持ち掛けられる。これこそチャンスと飛びつくが、"美味しい話"なんて通用しないのがこれまた世の常。
 
 
ヘンリーのおかげもあり、アフガン取引を契約を取ったことでデイビッドは8週間のアルバニア出張になる。
その出張前にデイビッドはエフレムに正当なパートナー契約書にサインさせるが、これがまた後に痛い目を見るのでコピーとバックアップは必須ということ!!
 
いざ弾薬の納品という段階になり、デイビッドはヘンリーに一枚噛まされたということに気づく。イタリア製だと売られた弾薬を直接確認しにも行ったが、確認させたものだけがイタリア製で、1億個用意した他の弾薬は全て中国製であった。(中国は武器輸出が違法のため、これを米軍に渡すなんてもってのほか)
結果、現地の人を雇い弾薬の再梱包をさせることで中国製であることを隠し、取引は成功!!
…なんて甘い世界ではなく、ヘンリーに裏切られたことにブチ切れたエフレムは仕返しをすると息巻き、デイビッドはヘンリーにリンチされ散々な目に遭う。米国に戻ったデイビッドは「普通の生活に戻るよ」と会社を辞めようとするが、エフレムにいいように誤魔化された上、契約書も破棄されているというエフレムのクズっぷり。
最後はアルバニアの再梱包バイトの管理者が、給料が振り込まれなかったことから米国政府に詐欺を密告し、2人はラストで逮捕される。
またアルバニアでの道すがらを運転手としてヘンリーが用意した男が行方不明になったことについて、デイビッドはヘンリーから口止め料の大金を掴まされてエンド。
 
 
 
 
エフレムがまさに「金!女!ハッパ!」というアメリカンドリームを成しえる人物にありがちなタイプではあるが、やはり映画で観ている分にはワクワク、ハラハラするのが堪らない。引き際というのは中々決められないのは人間の欲深さ故というのは世界共通か。

力や権力を持たなかった者が成り上がり、大きなビジネスを手にしたという面では「マネー·ショート」や「ウルフ·オブ·ウォールストリート」を彷彿とさせる構成。雰囲気でいえば「アメリカン·ハッスル」にも近いかなぁと。(今作はコメディ色が薄いけれど) 

 
 
タイトルの「ウォー・ドッグス」「戦場も知らずに戦争で稼ぐクズ」との意。なんたる皮肉だけどその通り。
戦争が起きていようと、知り合いが派兵されていようとそれぞれに個々の暮らしがあることは変わらず、自分に合う働き方、稼ぎ方を見つけることができればそれに越したことはない。
今作でいえば米軍がそのような軍需取引の詳細を公開していたところを付け込まれたわけだからツメの甘さというのはあったと同時に、劇中エフレムが「米軍だって武器の出所が怪しいとか多少のことは目を瞑ってるんだよ!」と言うシーンがあるが、それもその通りなのだろう。
数多の戦争映画を通して、戦争の歴史やありかた、その中で生きた人の生涯について知ることはもちろんだが、戦争の傍らでこんなビジネスを餌にしている人間がいることもまた戦争が生み出した不幸の1つなのだろう。
 
 
 
そして悲しいかな、やはり「お前は親友だから」を信じたら最後だ。