映画「オマールの壁」ネタバレ ー 秘密警察と時代に引き裂かれる信頼

オマールの壁(2013)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ/サメール・ビシャラット/ワリード・ズエイター 他
 

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«あらすじとか前知識とか»

イスラエルの支配下にあったパレスチナには、街を2つに隔てる分離壁がある。オマールはいつもその壁を越え、恋人のナディアに会いに行く日々を過ごしていた。タレクとアムジャドとは兄弟のように仲がよく、タレクはナディアの兄でもあった。
イスラエルに支配されている情勢下では自由も人権もなく、そんな生活を変えたいと仲間と行動を起こすが、運悪く秘密警察に捕まり、スパイになるか一生刑務所で過ごすかの選択を強いられる...
 
 
★★★★☆(3.6)
 
 
 

ネタバレとストーリー

 
オマールは自由も人権も認められていなかったパレスチナで現状を変え、恋人のナディアと結婚したいと考えていた。イスラエル兵に侮辱されたことをキッカケに行動に起こすことを決意したオマールは、仲間2人を連れてイスラエル兵の射撃を決行する。自白をする気も仲間を裏切る気もなく、証拠が出るはずがないからとタカをくくっていた。連行され拷問を受けても口を割らず、刑務所でも変わらず釈放を待っていたオマールにスパイの手が忍び寄り、騙されてしまうのだった。
捜査官のラミはオマールの身辺関係を調べ上げ、協力者となれ。断るならばお前は懲役90年だという。タレクを疑っていたラミは、釈放する代わりに1か月以内にタレクを首を持ってこいと言う。
 
オマールはナディアとの結婚を許してもらうため、タレクの同意を得る必要があった。しかしオマールは監視をつけられており、組織を裏切ろうとするが再び捕えられ、体内に追跡装置も仕込まれてしまう。
ナディアも、徐々に「裏切者」と噂される声に耳を傾け始め、互いの気持ちがすれ違ってゆく。その上、何度もアムジャドがナディア元に赴く姿を目撃し、胸騒ぎがするオマール。口を濁すアムジャドを問い詰めると、自分も脅されナディアを妊娠させたという。憎む気持ちとやりきれなさを堪え、結婚に妊娠した上に別の男の子供だなんてバレるわけにいかず、ナディアのために諦める決断をする。
 
それを兄であるタレクに2人で報告に行くと、タレクはアムジャドに掴みかかり、銃を手にするがそれを止めようともみ合ううちに暴発し、タレクは死んでしまうのだ。タレクの首を渡したことでオマールはやっと解放され、追跡装置も解除される。数か月タレクの死体が出ないようにしてくれと頼みこみ、ナディアの家族にアムジャドとの結婚の同意を得に行き結婚資金に貯めたお金を渡すのだった。
 
 
2年の時が過ぎ、アムジャドの元を訪ねると子供2人を抱えたナディアに出迎えられる。当時を悔やむ会話の流れで、ナディアを妊娠させたという話までもが嘘であったことが分かる。全てはラミが仕組んだことであり、結果自分たちは互いを信じることが出来ずに、オマールは友情も愛情も失っていたのだ。「当時のイスラエル兵殺害の犯人を教えるから銃をくれ」とラミに連絡をし、全てを奪った男を撃ち殺すのだった。
 
 

感想だとか考察だとか

 
 
ドキュメンタリーかと思うほど、リアルな日常と雰囲気。街も俳優も全てをパレスチナで構成されたこの映画は、フィクションでありながらもパレスチナの情勢を明確に表しており、ただ他人ごととして観るには忍びない。
ラミ捜査官は真実だけに愚直な人であれと思ったが、自分の手を汚さずお互いが自爆しあい痛めつけあう状況を画策するなど畜生というほかない。ただそれほどまでに狡賢く3人を翻弄しただけあるのに、なぜラストでそうも簡単に拳銃を渡してしまったのかと思う。。。数年の時を経て、憎しみなど消えたと思ったのか。オマールが銃なんて触るのも初めて!というそぶりをしたために油断したのか(使ったことないならむしろ暴発が怖くないか…?)。
しかし一番は全ての元凶となった男の命を奪ったところで、もう何も戻ってはこないというやるせなさだけが胸に残る。
 
信じたいもの、信じたい人だけを守りたくとも人の心はどこか脆く、1つの判断を間違えただけでも何もかもを失うこともあり。いっそ何も知らなければ幸せであったのに、戦争や植民地といった時代が生み、奪っていったのは土地や人命だけではないのだ。固く結んだ心すらも壊してしまうのが、人の自由を奪うということなのだと改めて思う。
 
 
ストーリーの肝は重い雰囲気もあるが、序盤のナディアと逢瀬を重ねるシーンはとても微笑ましく、まっすぐな彼を応援したくなる。そしてフリーランニングのシーンは見ごたえたっぷりで、ハラハラしながらも身のこなしの軽さに興奮すら覚える!フリーランニングといえば「アルティメット」を思い出しますが!
 
ちなみにアルティメットはこちら。
ストーリー抜きでも手放しで「すっげーーーーー!!!!」となれる最高にオススメのアクションです!フリーランニングというか正確にはフランスのパルクールという様々な動きを組み込んだ動きの1つです。