映画「92歳のパリジェンヌ」ネタバレ ー 人生の終止符を選ぶということ

92歳のパリジェンヌ(2015)
監督:パスカル・プザドゥー
出演:マース・ビラロンガ/サンドリーヌ・ボネール/アントワーヌ・デュレリ/ロビー・シナシ 他
 

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★★★★☆(3.8)

 

あらすじと前知識とか

92歳になったマドレーヌは、娘たちとその家族が開いてくれた誕生日パーティーの場で、ある告白をする。「わたしは2ヶ月後の今日、自分の人生に幕を下ろすことを決めました」家族はそんな母の発言や命のあり方、生き方を選択することを受け入れることが出来るのか。どんな終わりを迎えれば生涯が幸せだったと言いきれるのか。
 
 

ストーリーとネタバレ

 
母の突然の告白に息子のピエールは怒って飛び出し、娘のディアーヌも理解が追いつかず混乱するばかり。誕生日の飾り付けの "100歳まであと少し!" のワードが皮肉のようだ。以前より、自分の思うように暮らせなくなってきたら自ら人生を終わらせると聞いていた家族も、本音であったとなるとやすやす受け入れるわけにもいかない。ピエールは「そんなことは絶対に許さない!」と聞く耳ももたないが、ディアーヌはちゃんと母の想いを聞いてみることにする。
 
週に何度かヘルパーに来てもらってはいたが、基本的に身の回りのことは自分でしていたマドレーヌ。だがそれでも日に日に出来ないことが増えていることは自分が一番感じている。いくら元気で頭もハッキリしていようと、運転が出来なくなり、身体の自由がきかずトイレや風呂もままならなくなってくる。
そんな最中にディアーヌは腰を痛め、ボヤ騒ぎを起こし入院をすることとなる。暫く入院かホームに行くことを勧める家族だが、病院などでただ弱っていきチューブに繋がれたまま死にゆくのなら、自分の意思で終わらせたいと言うのだ。
母だからこそ、もちろん生きていてほしいのが本心のディアーヌだが、マドレーヌの話を聞いてそれは残された側のエゴなのかもしれないと思いだす。
 
腹をくくったディアーヌは母マドレーヌの想いを受け止めようと決め、残された時間をもっと母と過ごすことに使い、出来るだけ一緒に過ごそうと尽力する。母を最優先で過ごすディアーヌに対し、夫婦関係が険悪になったり、母の決意を尊重する様を見たピエールに激高されたりするが、それでも最後にしたいことを選択させてあげたその行為は誰しもがマネできることではない。何とか家族の理解を得てして決行の日を迎える。2002年にフランス元首相の母親が決断をした実話が元である。
 
 
 

感想とか考察だとか

「尊厳死」をテーマと考えると「世界一キライなあなたに」を思い出すが、あちらはそれを認められたスイスの件も主軸となっており身体の不自由さも相まってこちらとはまた違う雰囲気がある。
近年、諸外国では少しずつ耳にする言葉となってきたが、自分の祖父母や両親、大事な人がそれを選択せんとしたときに自分はどうするべきかと考えてしまうし、答えは出ない。それこそ今作のピエールのように拒絶するかもしれないどころかそれが最も濃厚に思うのも確かだ。まだ生きられるのに、子供も孫もいるのに、というのは生きる糧となるのはそうだろうが、自分の身体が思うように動かなくなる。ずっと出来ていたことが1つ、また1つと出来なくなっていくことを想像するのは容易ではない。ただ老衰や病死をするまで生きることがイコールその人の人生の幸せだなんて誰が言いきれるのかというのもそうだと思う。
「私がこのまま病院で死んでいけばいいんでしょう、それで満足なんでしょう」というようなシーンがあったが、自分が弱っていくことを実感しながらも生きることを強いられるのは一種の拷問なのだろうか。それは本人ではなく、「残される側」が心の準備をするための期間のようでもあり、とするとそれは残される側のエゴであるのかもしれないと思う。
ひとえに尊厳死がいいとも、悪いとも言えないが、それが身近になることもそう遠くはない未来なのかもしれない。
 

 

こぼれ話(独り言)

マドレーヌおばあさまが入院したシーンの看護助手さん。こちらクリストフ(ロビー・シナシ)君。
 

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無理やり生かさずもう死なせてくれよ~という老人たちにジョークを交えて世話をするその姿。
そしてディアーヌが夫と喧嘩をしたあとに偶然道で再開し、一緒にランニングをして気分を紛らわせてくれるあのシーンの彼。(このシーンがあったからこそ、終始命をテーマにしているがゆえの拭えない重さを和らげてくれたと思う。コーヒーやお酒でなく一緒に走ろう、って素敵すぎるよ。。)
 

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目で語るこのお方は誰…と思ったら、日本ではまだまだ無名な俳優さんらしく。(フィルマークスにも引っかからず、検索してもフランス語のwikiしか出てこなくて驚いた)あと個人的に好きなジュード・ロウみもある。若いころに似ているし、ロビーもちょっと髪が危ういところまで似てしまっている…そこは似なくていいよ…
フランスでドラマ多めで映画はまだ駆け出しくらいだけれど輝く気配がしている。要チェック!!