映画「ダンケルク」ネタバレ - 史上最大の"撤退"作戦

2017年9月9日公開の「ダンケルク」早速観てきました。
巨匠ノーランが初めて撮る実話を元にした今作。こだわりのCGなしの手法と、開始早々自らも戦地にいる感覚を味合わされるIMAXでぜひ!
 
ダンケルク(2017)

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監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィン・ホワイトヘッド/トム・グリン=カーニー/ジャック・ロウデン/キリアン・マーフィー/トム・ハーディー 他
 
★★★★☆(4.3)
 

あらすじと事前知識

 
第二次世界大戦中の1940年5月末~6月頭に決行されたのが、ダンケルクという町での"撤退作戦"だった。(ダイナモ作戦とも言われる)
ドイツ軍に侵攻を進められ、連合軍(イギリス兵・フランス兵)40万人がダンケルクの町に追い詰められてしまう。長い浅瀬が続く地形のこの場所には大型船はおろか、小型船でもなかなか近づくことが出来ないでいた。空陸海の軍事手段全ての角度から、異なる時間軸を組み合わせて描かれる撤退作戦が奇跡の大作戦と呼ばれる理由とは…
 

ストーリーとネタバレ

 
ダンケルクに追い詰められ、駆逐艦もなかなか来ずに待つばかりとなった40万人の連合軍兵士たち。重傷の仲間を救うため、イギリス軍の船に乗り込むトミーとギブソン。
しかし乗る船、乗る船次々にドイツ空軍の襲撃に遭い、なかなか進むこともできないまま負傷兵は増え、兵士の体力も奪われてゆく。船の乗り継ぎの際に転覆に巻き込まれそうだったアレックスを助けたことから、トミーは行動を共にするようになる。
船上では陸軍大佐と海軍中佐がチャーチル首相から撤退命令が出たこと、連合軍3万人を帰還させられればよいとの通達を受けたと話し合っている。しかしダンケルクに残された兵士は40万人おり、駆逐艦は1日に1隻しか来ないという。フランス兵だから、イギリス兵だから、という諍いや、陸からも空からも止まらない攻撃。戦闘機の中でたった1人での戦い。
 
民間船の召集に駆け付けるまでの間に負傷した兵士を助け、打ちどころが悪くダンケルクには戻りたくないと暴れる兵士によって命を落とす少年ジョージ。命を落としているのは戦場だけではない。
軍の船だけでは撤退も間に合わなかったところに、民間船やヨットまでもがダンケルクに駆け付け、干潮を利用して「3万人を帰還させろ」との命令はイギリス兵30万人、フランス兵も3万人を帰還させることで成功を収めた。銃器や戦車といった持ち帰ることのできない武器は多く失い、力を失ったが訓練を積んだ将校や兵士を大勢生きて帰したことで次にイギリスを襲うであろう本土襲撃に備えるだけの準備ともなったのだ。
そしてその裏でも、ダンケルクの兵士たちを守るために命からがら最後まで戦い続ける兵士の姿もあった。
 

感想とか文句とか

 
上映開始からほぼ全編を通して鳴る時計の音に、臨場感と焦燥感を駆り立てられる。CGなしで一体どうやったのと何度も聞きたくなる映像の見せ方、音の使い方に全身で"戦争"を感じさせられる緊張感がずっと続く。
転覆しかけた船から慌てて逃げるも、一度に大勢の兵士が海に飛び込むせいで海上に出ようとしても溺れかける、連合軍とはいえとにかく自国の人間だけでも助かればいいという本心、すでに戦争に精神をも蝕まれた兵士、戦争を知らずとも目の前にいる人を助けてただの落ちこぼれじゃないんだと誇りを持ちたい少年。
出てくる人すべてが主役であり、戦争の渦中では兵士も民間人も何も変わらないんだということを思い知らされる。
 
そして戦争だと戦っているのは兵士だけと思いがちだし、そういう面で描かれる作品が多い中、戦っているのは民間人も同じだということを、多くの民間船が救助に駆け付けたシーンで思い知らされたというか。
 
気になったのが民間船で救助に向かうドーソンの息子のピーター。父の手助けとなるべく船に乗ると、友人のジョージも共に行くと同乗する。道中、沈没船の上で佇む1人の英国兵士を助け、ジョージはしきりに世話を焼く。ダンケルクになんて戻らない、国へ帰るんだと言う英国兵士を見て後に「腰抜けじゃないか」と言い、彼に紅茶を手渡すと戸惑いながらも扉に鍵をかけて閉じ込めてしまう。戦うことを恐れて逃げ腰でいるなんて兵士じゃない、という憤りと自分も救助に行って力になり父にももっと認められたいという気持ちからきた行動だろうか。
しかしその後に、「国へ引き返せ!」と暴れる彼にぶつかったジョージが頭部に負傷を負い、数時間後に亡くなってしまう。しかし何度も「彼は大丈夫か」と尋ねる英国兵士に、ジョージが亡くなったことを伏せて「大丈夫だ」と答えるピーターに、こんなに幼い子までもが戦争に巻き込まれ、そのやるせなさと誰を責めてもやりどころのない気持ちを抱えて飲み込む戦争の深さを感じた。お前のせいだ、とでも言える場面でなお、戦争で傷ついた彼すらも守り、ジョージの尊厳を守る。目の前で人がしんでゆく光景すらも耐え難いものであるはずなのに、結局誰もが戦争の被害者なのだ。
 
ピーターの上記発言もしかり、帰国する兵士の発言でもあったように戦争映画では「負けて生きて帰るなら戦場で名誉を得る」「しんでた方がマシだ、袋叩きにされる」とのセリフがあるが、戦争とは言え(今回はこの時点で負けが決まっていたわけではないが)やはり訓練された兵士が大勢残っていること、夫や息子の帰りを待ち望む家族にとっては生きて帰ってきてくれるなんて、そんなに嬉しいことはないと。それが兵士の士気にも繋がるし、また新たな戦争映画の形を見た。
 
主演のフィンは今作のオーディションで見出された俳優らしい。今後の活躍にも期待したい!トムハの抑えながらも存在感のある演技も最高だった。これぞ兵士、を最後まで貫く姿勢に言葉もない。戦闘機スピットファイアがかっこよすぎる。。
 
 
余談ですが、家を出る時間を1時間も勘違いしていて本編ギリギリ滑り込みをしたので、息切れ具合がスクリーンとマッチした映像体験でした(?)