映画「たかが世界の終わり」ネタバレ - リアルな家族の形のひとつ

ドラン監督作は初見、独特な雰囲気のフランス映画。
観終わってドッと疲れる重厚感がありますが合間の綺麗なシーンが印象的。邦題がすごく良い。
 
たかが世界の終わり(2016)

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監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル/マリオン・コティヤール/レア・セドゥ/ヴァンサン・カッセル/ナタリー・パイ 他
 
★★★☆☆(3.2)
 
 

あらすじ

「もうすぐ死ぬ」ということを伝えるために、12年ぶりに実家を訪れる人気作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)。息子との再会を浮足立って待つ母マルティーヌ(ナタリー・パイ)、幼い頃に別れたため兄の記憶がほとんどない妹シュザンヌ(レア・セドゥ)と兄のアントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)、その妻のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)も4人が彼を出迎えた。
どこかぎこちなさを感じさせる途切れることのない会話の先にあった家族それぞれの想いとは…

ストーリーとネタバレ

自らの余命の短さを告げるために12年ぶりに実家を訪れたルイを待っていたのは、どこか刺々しく喧嘩がちな家族と義姉の4人。アントワーヌの妻カトリーヌは初めて会うルイと少しでも打ち解けようと自らの家族の話を始めるが、少し会話が進むたびにアントワーヌが噛みついてくることで暗雲が立ち込める。それでも会話を続ける家族だが、何かにつけて突っかかってくるアントワーヌに妹のシュザンヌ、母マルティーヌも語尾を荒らげる。
幼い頃を知らないまま大人になって再会したルイとシュザンヌだが、今まで会えなかった時間も兄のことをどこか気にしていたシュザンヌは、ルイの記事やインタビューはスクラップしていて今日の日も心待ちにしていたという。もちろんそれは母もしかり。どんなに会えなくても離れていても家族は家族、ととにかく"今"を家族みんなで過ごせることが幸せという表情。
12年の間に実家に寄り付くことはなかったものの、家族の誕生日やお祝いの日は忘れなかったルイは絵葉書に2.3行のメッセージを添えての連絡だけはとり続けていた。しかし結局はそれだけ、アントワーヌと2人で出かけた帰りに「お前は家族のことなんて何も気にしちゃいない。俺たちだっていわば他人だ」と言われてしまう。
それぞれと2人きりで話す時間を過ごすも何も伝えることは出来ず、デザートの時間に打ち明けようと決めるも、何かを恐れているかのように会話は途切れず。話の行方を案じたアントワーヌがルイを空港まで帰すと言い出し、家族は思いのたけをぶつけ合う。他人であるカトリーヌだけが、"何か"を繊細に感じ取るが発言は全てアントワーヌに遮られ、"家族の楽しい時間"はあっという間に崩れ去る。ルイは何も打ち明けることができないまま、実家を去る。もがきながらも必死に家を出てゆく鳥のように、きっともう戻ることはない。
 

感想とか文句とか

ドラン監督作を観るのは初めてだったわけですが、ウーン正直ちょっと合わないタイプのアーティスティックな感性だなと。カメラがアップでの撮影が多いことと内容の重み、半分近い時間が家族喧嘩(しかも比較的ヒステリックな)なので観終わったあとはぐったりする。「おとなのけんか」とはまた違う、家族だからこその救いのなさというか。
 
主人公のルイがなぜ死期が近いのかが説明されないのもだが、ルイのセリフ自体がものすごく少ない。母にも「あなたはいつも2,3言で返事を済ませているし、それ以上はないのかもね」と言われる。なので多くは語らないルイの周りでの家族の会話で主軸が組み立てられてゆく。
全員が「何か」あることはきっと気づいているはずなのに(でなければ12年ぶりに突然帰ってくるなんておかしいと思うだろう)、母は今、家族が揃っていればそれだけいいという雰囲気だし、アントワーヌは何かが変わることを恐れ常に喧嘩腰で会話を遮る。そして最もルイの話したいことの核心に近づけたのが唯一の他人であるカトリーヌ。(察したカトリーヌは「私に言うべきではない」と制すが。)
家族に意識を向けてこなかったルイだけれど、残された家族にとってみればずっとルイのことは気にかけていて。離れていても身近に感じられるように思い出せていたのに、いざ近くにくると上手くはいかないし、まだ距離感だって感じる。
アントワーヌは本当に観ていてイライラしてしまうほどにやっかんでくるし、いちいち事を荒らげようとする様子にこんな人と暮らすなんてありえない!と思うも、彼が軸となり守ってきた家族を12年ぶりにふっと現れた弟の告白で崩されることすらも恐れたのかなと。最後に「何でいつも俺ばっかり責めるんだ!!」とブチ切れるところ、彼は彼なりに抱えているものや男として背負っているものの重さを理解しようとしてこなかった家族にも原因はあったのかな。どこまでもやるせないというか。
 
にしてもルイ36歳でその家族がこの歳で1日中この喧嘩を繰り返されるのは正直しんどいものがあった。MVかのように曲が最初と後半に挟まれるが、あの演出も個人的にはちょっと合わなかったかな。歌詞はストーリーにリンクしていたし、音楽なしのシーンも多いからこその対比は上手いと思うけれど。
何も言えず、母も悟ってはいながらハグするシーンで空虚を見つめているようなルイがカーテンの揺れる様を眺めているところ、最後の家族全員が感情をぶつけ合う中に差す夕陽のオレンジが悲しいかな美しくて、この家族の不器用さが一層際立つように感じた。