映画「ムーンライト」ネタバレ - ブルーを通して見つめるLBGT

2017年 アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、話題になった「ムーンライト」。作中の月に照らされる中での美しいシーンに息を飲むこと間違いなし。
 
ムーンライト(2016)

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監督:バリー・ジェンキンス
出演:マハーシャラ・アリ/シャリーフ・アーブ/デュアン・"サンディ"・サンダーソン/アレックス・R・ヒバート 他
 
★★★☆☆(3.6)
 

あらすじ

 
内気な性格のシャロンは「リトル」というあだ名で呼ばれており、時折呼ばれる「オカマ」の意味も知らない少年だった。いじめっ子に標的にされ、家ではヤク中でネグレクト気味の母と2人。そして高校生になったある日、彼の唯一の友達ケヴィンと心に触れ合う体験をする...
 
 

ストーリーとネタバレ

 
麻薬の売人をしていたフアンは、ある日麻薬地区の廃墟でいじめから逃げ、怯えていたシャロンを保護し、テレサと暮らす家に連れ帰る。(シャロンが家を言いたがらなかったため。)それから時折2人を訪ねては人生の心掛けや泳ぎ、様々な経験を共に過ごすようになる。
 
高校生になったシャロンは相変わらず口数が少なく、ケヴィンとも大人の会話を交わすようになり彼はシャロンを「ブラック」と呼ぶ。フアンは亡くなっていたが、テレサのいる家に会いにゆくなど関係は続いていた。
ある日海で話をするシャロンとケヴィンは、お互いの心と身体にかすかに触れ合う。月明かりに照らされたブルーの中で、相手を求める気持ちだけが浮かび上がる。
いじめっ子グループに遊びをもちかけられたケヴィンだが、標的に選ばれたのはシャロンだった。寝てれば終わりだから立つなと言われても真っ直ぐケヴィンを見つめ、立ち上がり続けるシャロン。翌日いじめっ子のボスに仕返しの暴行をしたため、少年院送りとなる。
 
大人になると少年院時代に世話をしてもらった繋がりから売人の仕事をし、稼ぐようになった。母はお水の仕事も麻薬も辞め、施設で暮らしていた。
ある日ケヴィンからの電話を受けて、彼の働く飲食店へ行き再会を楽しみ近況を話し合ったのちにシャロンが高級車でケヴィンを家まで送る。彼の家でシャロンは積年の想いを打ち明け、幼き頃の純粋なままの彼を取り戻すのだった。
 

感想とか文句とか

 
フアンの「自分の道は自分で決めろ。周りに決めさせるな」という言葉があったのはもちろんだが、シャロンが幼きころに彼にしっかり向き合って接してくれた唯一の大人がフアンとテレサだけだったから、シャロンはどこかでその生きざまを追ってしまったのだと思う。2人の愛を受けたことももちろんのこと。
 
LBGT、薬物、ネグレクト、いじめに貧困と重いテーマを彼の成長とともに一定期間を描く。そのどれもが、良くも悪くも彼の一生に付き纏うこととなる。
 
【 リトル(幼少期)】【 シャロン(青年期)】【 ブラック(壮年期)】の3章を通して彼の人生を描くが、彼の純粋な心だけは一貫して揺らがない。3人の俳優を通してシャロンが描かれる中でも俯きがちに話す癖や雰囲気はとても似通っていて、また新しい見せ方。
 
黒人が月明かりに照らされてブルーに輝いて見えるというケヴィンとのシーンは、行為こそ驚くもどこか神秘的な美しさまで感じる。
 
あんなにいかつい売人お兄ちゃんになってもなお、高校生のあの海でのケヴィンとの心の繋がりだけでまっすぐ純粋な想いを秘めてきた。ラストの告白のシーンの切なさは計り知れない、幼い頃からケヴィンは彼の味方でありながらも自らが強いこと、タフなことを示せと言っていた彼に男であることをも強く教えられたのだもの。
思えばその"恋"はもちろん、フアンに連れられ初めて海で泳ぎを教わるシーンも海に入ったときの真新しさに輝く瞳がすごくよかったなぁ。そのフアンがさらっと亡くなってしまったのはすごく残念だったけど。
 
静かで難しさはあれど、映像も美しく夜にしっぽり観たい1本。子供も麻薬をするシーンと、月明かりの海での2人のキスシーン、手でしてあげるところが苦手な人はいるだろうけど。。
 
アカデミー賞の作品賞はしばらくこういう毛色の作品が多いなぁと。今作は特に初のLBGTを扱う作品が受賞とあったけれど、作品賞は宗教観とか社会性とかの辛辣な状況に向かって生きていく系統に決まってきているのはアカデミー会員の好みかな。
にしてもムーンライトも良い作品だからこそ、授賞式の渡しミスは許されないよなぁ。あれを大事にせず機転よくまとめたジミー・キンメルはさすが。