映画「ファントム・スレッド」ネタバレ感想 - 媚薬代わりの〇〇と狂愛

こんにちは桜江です👗
ダニエルルイスの引退作のファントムスレッド、浸ってきました。新宿の武蔵野館で観たのですが、やはりこういうミニシアターで公開される作品は映画の雰囲気ともぴったりで素敵。

ファントムスレッド(2018)
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監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス(レイノルズ)/ヴィッキー・クリープス(アルマ)/レスリー・マンヴィル(シリル) 他

おすすめ度
★★★★★★★☆☆☆

・作品全体が美術品のような映画が好き
・役に入り込むダニエルの深みが好き
・常人の域を逸したヤバイ恋愛が観たい
こんな方はぜひ足を踏み入れてみては...!

あらすじ

1950年代のロンドン。天才仕立て屋として働くレイノルズは、姉のシリルと共にブランドを立ち上げ、作り上げてきた。その想像力を刺激し、洋服を引き立てる理想の身体を持つ女性を"ミューズ"に迎えては、自分の生活に適応させながら。しかし、ある日訪れた先で出会ったアルマをミューズとして迎え入れたことで、彼の規律の取れた生活はリズムを狂わせてゆく──

ネタバレとストーリー

ロンドンでの高級婦人服の仕立て屋として働き、女性の美しさを引き立てるプロのレイノルズ。姉のシリルと共に築き上げたブランドを守り続け、その刺激となる女性を入れ替わり立ち替りさせていた。
そんな折に立ち寄ったカフェのウェイトレス・アルマに、レイノルズは一目で堕ちる。心に眠る母親の思い出を打ち明けながら瞬く間に距離を縮めたアルマは、彼の家に招待される。アルマの採寸を済ませるとシリルに「あなたは彼が求める"理想の身体"」だと告げられる。愛らしい丸いお腹が彼は好きだという。

彼に求められながら、あるまはミューズとしての仕事もそつなくこなそ続ける。しかしミューズとしては素晴らしい彼女には、そそっかしい面もあり、レイノルズはその落ち着きのなさに声を荒らげる。
彼の不安すらも汲み取り、彼の服を大事に扱わないものには真っ向から噛み付く姿に、2人は不器用にも愛を深めてゆく。王妃の出現や周りの美しい女性たちを見て不安に駆られるアルマは、彼をずっと繋ぎ止められる愛に執着し始める。彼に合わせるだけでなく、自分なりの愛し方を伝えようとしたばかりに、ついに大喧嘩となる。

彼の愛を求めるばかりに、アルマは森で毒キノコを手にする。レイノルズの飲み物に摺ったそれを混入させると、レイノルズは王妃のドレスチェック中に倒れ、嘔吐と全身の痛みが止まらなくんる。余計なことはせず彼を尊重し、傍で献身的に支えるアルマに心打たれたレイノルズは、この愛を信じ、結婚を申し込む。しかし、やがてそれが間違いであったとレイノルズは思い悩む。長年築き上げてきた慣わしとリズムに踏み込まれ、悪い影響しか起こらないという。
話を聞いていたアルマは、再び森へ行き、あのキノコを手にする。レイノルズは母への愛しか知らず、そしてこの毒キノコによる効能に気づいたアルマは、彼にそれを食べさせ、ずっと傍で自らが支えなければダメになるよう繰り返していく。元気になればまた繰り返し、レイノルズはすべてを受け入れ、言う。「倒れる前にキスをしてくれ」と。

雰囲気を司る "音" の演出

序盤から音楽の良さはひしひしと感じられる中でふと気づく。ずっと音楽が鳴っている...?何だろうこのゾワッとする感じ、と思うも束の間、切り替わった生活音に全てを持っていかれる感覚。すごい映画を観に来てしまった...と思うのに時間はかからなくて。思えばあそこからこの映画全体に流れるただの恋愛ではない怪しさを醸し出していたんだなと。

その使われる音の変化がハッキリしているからこそ、序盤でアルマがガチャガチャと忙しない朝食をとるシーンも生きていて。レイノルズの整った厳正な日常をかき乱していくアルマの、彼の愛への執着と最後の狂気の愛の形を作り上げるキッチンの料理音までもが固唾を飲み込まされる。もう人の手料理すらもこわい......(笑)

この愛は究極か異常か耽美か

こんなとんでもない愛の形を目撃してしまって、もうどうしたらいいんよと思ったのが率直な感想。ヤバイなんてものではない。日常的に(愛を計るタイミングがあるといえど。いやそれも彼女の感じ方次第だし...)毒キノコを盛る習慣をつけた上で育む愛をお互いが許容している。男女の恋愛なんてもちろんお互いがそれでいいならいいんですけど。やはり愛か...愛が何だかもう分からないよ、おばあちゃん。

異常な性癖とも言える2人の関係は、恐ろしくもあり、ただ確かに美しくもあって。というより映画全体に流れる雰囲気が「美」に包まれているからこそ受け入れられるというか。

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上映前にポスターの写真を撮って、化粧室に行こうと脇を撮ったときに「ん?何でこんなところに?」と思った、この絵の中だと一際浮いたキノコ。なるほどこうきたか...と思わされた瞬間でした。

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お家で食卓に並んだキノコを料理を見たら、一度最近の行いを振り返った方がいいかも...?笑

あ、それから。一番好きなシーンはアルマとの初めてのディナーで「本当の顔が見たい」と、ナフキンの端を湿らせてアルマの紅を落とすシーンです...軽くくわえて落として見せるアルマも、それを見つめてぬぐうレイノルズも、どんなシーンよりも官能的で美しかった...。