トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(ネタバレ)

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2015)

TSUTAYAに準新作で置いていたところを気になっていたので、ついに借りましたよ。
主演のブライアン·クランストンが2015年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことと彼の経歴で知ってる人も多いでしょう。


実話が元になっているんだけども、パッケージを見た先入観で勝手にすごく意地悪なおじさんの話かと思って。作った映画の中盤あたりに皮肉と煽りを織り交ぜた結果糾弾される、とか(笑)
始めの10分で全くそんな人ではなかった...すまんトランボ...と気を引き締めつつ鑑賞しました。
また副題が、ハリウッド「に」最も嫌われたというところがまたね。ハリウッド「で」と思い込んでたのもあるなぁ。

★★★★☆(3.9)

〈映画を観る前の事前知識〉
1940年代、赤狩り(マッカーシズム/アメリカの共産党員やその支持者と思われる人達を対象に、公の職務などから追放すること。)が行われ始め、ハリウッド·テンを代表する主人公のダルトン·トランボ(ブライアン·クランストン)を始めとする映画関係者10人が映画界から追放されるんですね。
民主主義が正義のアメリカで共産党員とは何事か!!しかも映画を撮る連中ときたら作品か何かで仲間を増やすつもりだな、けしからん!!といった具合に、まぁ何とも理不尽な理由で追求されまして。

序盤にトランボが「よく知らない人を悪だと決めつけるな」というシーンがあったけれど、心に沁みたなぁ。現代にも言えることだけれど、声が大きいものに振り回されたり思い込んだりしてしまうことほど無駄なことはないね。

※以下ネタバレを含みますのでご注意※

トランボたちを追放した際のインタビューで、「奴らは共産党員だから追放だ!議会の侮辱までした!」に対してマスコミが「映画に何ができると?笑」と言ったところ、なかなか好きでした。
娯楽の1つである映画の制作で共産党の支持者を増やすなんて意味がないでしょと周りもトランボたちも考えていたって、いわば疑わしきは罰せよの世界だったわけで。
現在の自由がある程度約束されている時代に生きていると尚更、芸術家を弾圧するという意味が分からないし芸術とは何だと問いたくなる。

追放され、仲間に裏切られた挙句に刑期まで全うしたトランボが家に戻ってもなお「書き続けること」だけを選択した強さと、熱心さと、信仰が違えどよいものを世に出すことだけを諦めなかった心と家族の支えって本当にすごいと思うんですよね。
クレジットは出せないからと友人の名や架空の名前で執筆を続け、「ローマの休日」を筆頭にオスカーまで獲得して。家族でアカデミー賞の中継を見るシーン、トランボが執筆した作品が選ばれた瞬間に(違う名前で別の人が登壇しながらも)家族みんながお父さんの作品だ!!と全力で喜ぶ場面にこの一家の人柄の素晴らしさが出ていると思う。本当はお父さんが、うちの夫が書いたんだよって言いたいときだって何度もあったはずなのに。

終盤のカーク·ダグラス(ディーン·オゴーマン)の飄々としながらも真を貫いて、ヘッダ·ホッパー(ヘレン·ミレン)や民主主義絶対主義たちに脅されようと揺るがない姿勢がすごくかっこよかった。
こうやって1人また1人と行動を起こし信念を貫く人がいるおかげで時代は変えられるんだよなぁ。

またエンドロールで実際の映像インタビューや写真が流れるのだけれど、あのお風呂にタイピングを持ち込んでも仕事をし続けたシーンが実話だったとは。劇中でも表されていたけれど、書くスピードも本当に早かったようで仕事人間を貫き、家族もそれに協力していけたからこそ成しえたこと。
下の娘さんはトランボが追放されたときにまだ3歳で、10年の間ずっと父親のことを聞かれても答えず、別人の名前で脚本を書き続けるトランボを支えたという。クレジットにトランボの名前を公表できるようになり、
「私たちは"名前"を取り戻したんだよ」
と話したというインタビューで胸にグッときた...。

脚本家としての仕事人間トランボの風景もとても面白かったし、家族の支えの強さ、やりきれなさと、今となっては恥でもあろう当時の苦味を感じさせる芸術をも対象とした赤狩りの背景に非常に考えさせられる映画でした。一見の価値あり