映画「シェイプ・オブ・ウォーター」ネタバレ感想 - じんわり温まる、大人にオススメの愛のカタチ

祝!!2018アカデミー賞「作品賞」「監督賞」「美術賞」「作曲賞」受賞!!

 

アカデミー賞9つのノミネートもあり大注目だった今作、何よりアカデミー賞発表前に公開してくれたので授賞式も納得の想いで聞けてよかったなと!
いつもいつも日本公開が遅くて困っちゃうからね!去年だってララランドもマンチェスターも未公開のまま発表だったからいまいちスッキリ結果聞けないというか(マンチェスターに至ってはアカデミー賞から2か月以上先の公開だったし)まぁグズグズ言ってないで紹介!!
 
シェイプ・オブ・ウォーター(2017)

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監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス/マイケル・シャノン/リチャード・ジェンキンス/ダグ・ジョーンズ/マイケル・スタールバーグ 他
 
 
おすすめ度
★★★★★★★☆☆
 
・ゆるやかなファンタジーが好きなひと
・人種や壁を越えた純愛を観たいひと
※ちょこっと過激なシーンを含むので耐性のある方はおすすめです
 
 

あらすじ

 
1962年 米ソの冷戦時代に表向きは「航空宇宙センター」という極秘研究所で清掃員として働くイライザは幼少期より声帯が傷ついており、声を発することが出来なかった。それでも同僚のゼルダ、手伝いをしながら共に暮らす絵描きのジャイルズと毎日を過ごしていた。
ある日、研究所に謎の海洋生物が持ち込まれ、棍棒を手にしたストリックランドが出入りする中、銃声や悲鳴が飛び交うようになる。イライザは偶然その海洋生物と対面することとなり、徐々に"彼"との繋がりを掴み始める。
 
 
※以降ネタバレを挟みます
 
ざっくりストーリーをおさらい。イライザの勤める研究所に運び込まれた海洋生物の"彼"は、アフリカで神として崇められていた存在で見た目はモンスターのようだった。エラ呼吸をし、海水に近い状態でなければ生きていることすら厳しい。そんな彼の生態を暴き、ソ連と差をつけようと力ずくで手を下すのがストリックランド。彼を連れてきた博士(実はソ連のスパイ)のホフステトラー博士は自らの使命よりも、いつしか美しき複雑なこの生物を生き長らえさえ、研究したいという想いを強くしてゆく。
ある日彼を隔離してい部屋から3発の銃声が聞こえ、血だらけのストリックランドを引き連れて部屋を後にするのを目撃した。すぐに部屋の清掃をするよう呼ばれたイザベラとゼルダは人の指が2本落ちているのを見つけ、ストリックランドらに報告をする。
 
イザベラは部屋に出入りするうち、彼の過ごす水槽に触れ、二人の間には不思議な雰囲気が流れ、ためらいながらも両社は互いに惹かれていくようになる。レコードを持参し、共に食事をし、徐々に意志を交わすようになっていく。だがその最中、イザベラは彼がストリックランドたちによって実験体にされようとしていることを知る。
彼を助けたい一心でイザベラはジャイルズに協力を頼む。始めは拒絶するも、彼女の想いを知り、自らも想いを寄せていたカフェのイケメンの差別発言を聞いたことで目を覚まし、その"愛"のために力になろうと申し出てくれる。また、自国やアメリカのことよりもこの生物を守ることを優先したいホフステトラー博士はイザベラの思惑に気づき、手を貸すこととなる。
無事彼を連れ出すことに成功したイザベラは彼を家のバスルームに匿い、大量の食塩と卵を買い込み彼とのひと時を過ごすようになる。
しかし研究所では彼を探すために大規模な捜査が行われ、また彼もその環境下では衰弱が進み、大雨の日に海への水門が開くタイミングを待つほかなかった。寂しい気持ちをこらえきれないながらも彼を逃がす晩、そのタイミングでストリックランドに彼を匿っていたこと、桟橋に向かっていることを気づかれてしまい、ジャイルズも彼もイザベラも撃たれてしまう。しかし不死身の彼は気を取り戻すと、彼女を失うことを分かり憤りを表に出しストリックランドの喉を掻っ切ってしまう。
警察とともに駆け付けたゼルダたちをよそに、彼はイザベラを抱え海の中へと沈んでゆく──
 
 

声のない彼女と人間ではない彼

 
イライザは声帯に傷を負っており昔から発生することが出来なく、また幼い頃より孤児であった。他の人と同じように働きながら、親友であり同僚でもあるゼルダとガールズトークを交わし、日常の愚痴を交わし合う普通の女性であった。そんな彼女もテレビや音楽に触れれば心を弾ませタップを踏み、毎朝のバスタイムでは自らで快感を得ることもしていた。また絵描きのジャイルズとは隣部屋に住みながら猫たちと暮らし、家事の手伝いをして過ごしていた。
声がないということに全く違和感を感じないというか、ひたすら自然に他の女性たちと何も変わらない魅力があふれていて。作中の誰も彼女のそのたたずまいを否定することをしないながらも、周りのように言葉を持って想いを伝えきれないもどかしさを抱えている。
 
また"彼"はアメリカに連れられる前はアフリカで神として崇拝されていたとされており、
彼自体が宗教を表す存在であるのかなとも感じました。「グリーンマイル」のような感じ、あちらは完全にキリストの具現のような扱いであったけれど。再生させるというチカラを与えたのはそういうことだったのかな。自らを不死身とし、触れたところを再生させる(ジャイルズの傷とか、髪の毛とか。笑)そう考えると早い段階で彼女の喉に触れてくれれば声帯を取り戻すことは出来なかったのだろうかと思う反面、"声がないこと"は彼女を愛する上で彼にとっては全く問題ではなかったのだから、そんなことを想うのは野暮なのかなと思ったり思わなかったり。別れる前の日に声を得て想いを歌にする空想のシーンがとても素敵だったから、その声をもう少し聴きたかったのもある。
 
 

様々な性の在り方をも如実に観せる物語

 
人外であることや肌の色や人種といった要素の他に性的嗜好をも如実に描いているのが印象的。一見まじめでおとなしい中にお茶目な雰囲気を見せるイライザが実は毎日シャワー中に自分を慰めていて、ちょっと衝撃的でもあるシーンだったかなと。彼女も独身であるしさみしさは他の女性と変わらずあるし、愛だってあたたかみだってもっと感じたいということ。共に暮らすジャイルズは通っているカフェのイケメンとお近づきになりたいこと、ゼルダもどこか夫婦関係が上手くはいっていないこと。綺麗な妻と子供たちを持つストリックランドも勤務時の乱暴さからも察する一方的とも見える性交を行っていること。ストリックランドの夫婦営みシーンなんて昨今では珍しいほどのがっつり真ん丸モザイクかかってて、えぇそう見せるの!?と一瞬思いましたね。いうてあの彼がシーツをまとって優しく抱いている様なんて想像できないし、あえてではあるんだろうけれど。
 
またイライザと"彼"の愛し合うシーンに流れていく描写とあとはご想像に…♡な感じも素敵だったなぁ。言葉がないからこそ表情と雰囲気、音楽から私たちは二人の感情を読み取ることが出来て、入り込むことが出来ているんだと思う。翌日のゼルダとのガールズトークはまるで女子高生のようにキラキラしていて微笑ましい気持ちでいっぱいになったし、若い頃を思い出すなぁ(笑)
 
あの乱暴なアイツにも、"普通"とは少し違う彼女にも、"人間じゃない"と言われる彼にも愛や性の感情、欲望はあり想いの先に求めるものは誰しも同じであるのだというメッセージが素直に心に入ってくる心地よさが素敵だった。
 
 
 

何をもって"人間"であり"それ以外"だとNGなのか

 
 
作中、イザベラの彼を助けたいという願いをジャイルズに訴えかける中で、「彼には私に何が足りないかは分かっていないしそんなことは重要ではない。彼は本当の私を幸せそうに見ている」「彼を助けられるのにそれをしないのなら私たちだって"人間"ではない」と言うセリフがあった。
実際今作での"彼"をとってみると、見た目がモンスターのようであるという点以外は、意思疎通が出来、音楽を楽しみ、愛しい人と触れ合い、愛し合うことも出来る。親しきものの頭を撫で、また自分にもそれを求める姿は人が甘える姿と何も変わらない愛おしさを感じたし。とすればやはり相違点は見た目と哺乳類であるかだけではないのかと考えられるし、それが違うからと差別をするのは、カフェのイケメンと同じ「黒人だから」「同性愛者だから」と虐げるものたちと本質的には何も変わらないのではないか?人間同士で"普通"の夫婦生活を送るストリックランドは自尊心のために生きているし、ゼルダ夫婦は長い間会話もなく、互いのためといい嘘をつきながらも共に暮らし続けている。人間同士だから幸せなのではなく、本質から相手を認めることの出来る愛の強さと純粋さにかなうものなんて何もないのかもしれない。
 
 

美しい純愛である中のグロテスクとコメディの塩梅が美味しい

 
とびきり素敵でありながら、ファンタジーとラブストーリーのいいとこどりでもある新しい純愛の形を見せてくれた。その中でも先に述べたような問題提起もされていて、(米ソのアレコレももっと深く読めばいろんな思惑が隠されていると思う←日本史専攻者)サスペンス要素とアメリカンジョークともいえるシーンやクスッと出来るシーンもたくさん挟まれている。
イザベラのお風呂で…や、ストリックランドのラブシーンにのみならず、噛み切られた指や電気警棒で彼を痛めつけるシーン、博士の銃痕をえぐるところなど目を背けたくなるところもあるんですが、それがあるからこそこの純愛が引き立つというのもまた肝。飼いネコを…はかなりショッキングだったけれど。言って分かることではないといえ、ジャイルズもイザベラもすぐ受け入れたのはすごすぎない…?
最後のシーンもかなり胸が熱くなる状況下で、ジャイルズがサヨナラを伝えながらも最後の願いで恩恵をと自分の頭を撫でさせたところは笑えました。髪大事だよね。あのラストはジャイルズの言葉通りに受け止めたいな。彼女の喉の傷に触れ、開いたように見えたあのシーンもまた確かめにもう一度行きたい。
アカデミー賞作品賞にふさわしい、納得の大人のファンタジー恋愛映画でした。