映画「独裁者と小さな孫」ネタバレ - 赦すことを選択すること

ある独裁者が治める小さな国でのクーデター勃発、国王と孫の逃亡、裏切り、復讐、そして復讐のその先までを言及してくれる今作。
孫の可愛さでかなり緩和されてはいるがなかなかに重い一作。
 
独裁者と小さな孫(2014)

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監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュヴィリ/ダチ・オルヴェラシュヴィリ 他
 
★★★☆☆(3.6)
 

あらすじ

名もないある国の独裁者は、政権を維持するため自分勝手な行いや裁きを下し続けていた。ある日その体制は崩れ家族を国外に逃がすが、暴動を抑えられると考えた独裁者と、ダダをこねた孫は国内に留まった。逃亡の旅を続けていく中で自らのしてきたこと、国民それぞれの意見を知ることとなった独裁者は...
 
 

ストーリーとネタバレ

 
とある名もない国の大統領は国民の不安を煽る行動をとった者は16歳の子供であろうと死刑を執行させ、ある晩には孫に「これが陛下の力だ」と、何度も国全体の電灯を落としては点けてと自分勝手な行いを働いていた。
そんな中、国ではクーデターが勃発し、大統領一家は騒ぎが収まるまでの亡命を図る。
 
クーデターが悪化し、側近や信頼していた者にも裏切られた大統領は孫を連れ、ゆく先々の家で国民を脅し、身ぐるみをはいでは変装を重ね国境を越えるために海を目指す。孫は何度も宮殿でずっと共に過ごしていたマリアに会いたい、陛下はやく宮殿に戻ろう、とグズる。そんな孫を諫めつつ、盗みや強カンを働く兵士たちや、懸賞金を懸けられ自らを探し回る国民に事の大きさを感じ始め、かつて関係した売春婦に逃亡資金を援助してもらう。
旅路の途中で出会った政治犯(今回の暴動により釈放)の中には、あんな独裁者はコロすべきだという者もあれば、復讐を重ねたって何も生まないとの理論を呈するものもいて、大統領は自らの立場と行いを考えさせられる。
やっと海へたどり着いたと思った矢先に、大統領の姿を目撃していた農民の通報により大統領とその孫は捕えられる。制裁を!死を!との叫びの中、そんな死に方じゃぬるくて許せないという者、自分の家族にした死に方を辿れという者、先程まで旅を共にし、「復讐だけが全てではない」と呈した男と老人が輪に入り、こんな負の連鎖はもうやめろと言う。「ではただ許せというのか」との言葉に男は「踊らせろ。民主主義にしたいのなら踊らせるんだ」との言葉にためらいながら斧を振りかざす市民。
海辺では孫が老人の弾くギターに合わせて踊りを続けていた。
 

感想とか文句とか

 
復讐をテーマにした映画は今でも多くある一方、特にここ数年では「復讐」という負の連鎖を「断ち切ること」を訴える作品が増えてきたな、と。(「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」や「レイルウェイ 運命の旅路」等)
大きな戦争がない現代だからこそ見える形、それでもいつ起こってもおかしくはない今だから訴えられるメッセージを強く感じた。
誰かを赦すことは当たり前だが簡単ではなくて、お前のせいで死んだあの人の仇をとるって思うのもきっと普通の感情。しかしどこかで赦しを与えなければ復讐ひいては負の連鎖が途切れることはない。次の世代、また次の繋がりといくらでも憎しみを続けていくことは出来る(途中までの「96時間」シリーズのように)じゃあどこにこの怒りとやるせなさをぶつけたらいいんだと言われたら正直何も言えないんですけどね。。
しかし「大統領の息子夫婦をコロしたテロに俺も関わっていたんだ」と1人の政治犯に言われ本心では襲いかかりたかったあのときに、自分がしたことと、命を奪ったものの家族の気持ちをやっと考えることが出来たんだと。(もう遅いんですけどね・・・)
 
思えばストーリーの序盤で家族が思いをぶつけ合い、バラバラの気持ちであったことから大統領は身近な世界も国全体もまとめる力量はあらず、それを継ぐのだと育てられていた孫の「明かりをつけろ」の命令が通らなくなったことも、反乱の前触れと伏線の一つであったかと。
 
序盤は言うほど独裁者か?と思っていたけれど、国民たちと関わってゆくに連れ、彼のしてきたことを示唆してゆく。また出てくる全ての人物に役名が与えられていないのも印象的。「大統領」「孫(息子)」「政治犯」「革命軍」と抽象的な名前で呼ばれる。それが尚のこと、物語の本質だけを突き付けてくる。
 
海で追い詰められたシーンでまず大統領を苦しめろと先に孫の首に首吊り用のロープをかけられて、孫は騒ぐでも暴れるでもなく恐怖で震えて静かに涙を流しながら何度も大統領のことを見るシーンがあって。大統領は孫に顔を向けることはできないために孫の曇った表情が晴れることはなくて。もうこのシーンだけで苦しさとエグさが酷くて観るのやめたくなったくらいだから子供にこんなことさせるの本当にやめてほしい…映画でもキツすぎる…
 
ラストの「躍らせろ」にはさまざまな捉え方があるのだろうけれど、踊らされているのは自分たちなのか、相手に対してなのか。自分はどちら側に立っているのか。復讐という思いだけに捉われて結果踊らされたのは国民なのか。やりたい放題をしてきた大統領なのか。
道中の復讐反対派の政治犯の言葉「誰かを殺して始める民主主義に何の意味がある」がとっても深く残った。