映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」ネタバレ感想 - 責任の裏で置かれた女性の立場

こんにちは桜江です。
この時期は気になる作品の新作ラッシュについていくのでワクワクとあれも観たいこれも先に観たいとジレンマな日々を送っています。そんな今日はアカデミー賞の作品賞と主演女優賞にノミネートされたコチラ!
 
アメリカでの”自由”の在り方と、真実を伝えるために奔走するワシントン・ポストの2人のジャーナリストにスポットを当てた実話映画。新聞社が締切や圧力に反して最後まで粘る映画はいつも手に汗を握る最高の展開です…!
 
 
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2018)
 

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監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス(ベン・ブラッドリー)/メリル・ストリープ(キャサリン・グラハム/通称:ケイ)/サラ・ポールソン(トニー・ブラッドリー)/ブルース・グリーンウッド(ロバート・マクナマラ)/ボブ・オデンカーク(ベン・バグディキアン)/フリッツ・ビーブ(トレイシー・レッツ) 他
 
おすすめ度
★★★★★★★☆☆
 
・ハラハラさせてくれるサスペンスが好き!
・リアリティと歴史に通ずる実話元が好き!
・やつれ気味に見えても圧巻の演技のメリルが観たい!
・トム・ハンクスはやっぱり外れない!!!(主観)
という方はぜひどうぞ(*'ω'*)
 

あらすじと前知識&見どころ

1971年、ベトナム戦争が激化している渦中のアメリカ。スクープを探すワシントン・ポストの記者たちは、突如入ったNYタイムズの大スクープを受け、震撼する。アメリカ政府が長年、何代にも渡って隠蔽し嘘をつき続けたベトナム戦争の裏側が明らかになったのだ。思わぬところからポストの記者も情報源の人物にたどり着くが、すでにタイムズは政府からの差し止め命令を受け、訴訟を目前としていた。事実の文書を手に入れた記者たちが選択するのは”真実の報道”か、会社を守るための”嘘の黙殺”か──
 
 

ストーリとネタバレ

ケイが社主を務める新聞社の「ワシントン・ポスト」では、株式の公開を目前としていた。公開から一週間の間に非常事態と思われる事柄さえ起きなければ問題なく進むと言うが、ケイは不安を隠せない。またポストの記者はホワイトハウスとの確執があり、大統領の娘たちの結婚式の招待からもはじかれるようになっていた。
タイムズの有名記者が数か月記事を書いていないことを不審に思った編集主幹のベンは、タイムズへポストの記者を密かに送り込むとする。明日の一面に大きな記事が出るということだけを掴み、ケイは友人たちとの会食の場で友人且つ国防長官のマクナマラから「明日とても重大な記事が出て、まずいことになる」という事実を聞く。その内容は予想を遥かに上回るものだった。翌朝紙面に載ったのは、ベトナムの調査文書であり、アメリカが30年間関与していた証拠になるマクナマラへの報告記事であった。そこには今まで国家が国民に対して嘘をついていた証拠や、ベトナム戦争が不利であることや戦場に兵士を送っても意味がなかったことも示されていた。政府が漏洩、反逆での対応を急ぐ中、ポストの記者も文書の入手に駆け回る。
 
そんな折に、ポストへある大量のコピー紙が持ち込まれる。次こそは先を越すと意気込むも、またしても同じ記事をタイムズに奪われてしまう。焦ったニクソンと政府はタイムズを訴えるべく、記事の差し止め命令を言い渡す。
この最高機密文書を漏洩させたのは、過去ランド研究所に勤めていたダンであり、彼は1966年の戦況調査に同行していた。そこで戦況は全く改善していないと裏では語っていたにも関わらず、マスコミには「状況は改善している」と嘘をついていたことから疑問を持ち、数年に渡り文書の持ち出しとコピーを繰り返していたのだ。かつてダンと共に働いていたポストのバグディキアンはそのことに気づき、ダンと再会し約4000ページの文書を手に何があっても掲載をすることを約束する。その裏でケイはベンに記者と友人のどちらを守るべきかを迫られ、会社の存続をも巻き込む事態に頭を抱えていた。
 
大量の文書を手にしたベンたちは彼の家に集まり、ページの落とされた文書を繋ぎ事実を明らかにすること。また法をかいくぐるギリギリを探るため、ポストの法律顧問も呼び7時間での発行手配に息を巻いていた。しかし国家に危険を与えるとみなされる記事の掲載は禁止されていた。
 
ケイはマクナマラに事実を確かめるも、掲載の結果起こりうる可能性を脅され、掲載の有無を決めかねていた。ケイと顧問弁護士たち、フリッツたちは記者としての使命を全うすべく激しく言い争うもケイは掲載することを認める。しかし発行直前になり、弁護士より「この記事の出所がタイムズと一緒であるならば、タイムズが差し止めを強いられている今ポストも共謀罪や法廷侮辱罪にあたる。そうなれば皆投獄だ」との注意を受ける。
株の公開での趣意書に記載された非常事態ともとられることだが、文書を読みつくしていたケイは、趣意書には”新聞は国民の繁栄のため報道の自由が約束されている”ことが盾になると気付いていた。またこの記事の公開によって、100%兵士が危険に晒されることがないことも。父のでも夫のでもない私の会社のことは私が決めると、新聞の発行を決行し、政府との裁判で戦う心づもりも固める。ポストは差し止め命令を免れることが出来、また記者としての誇りを貫いたポストに倣って、各紙も文書の掲載をした事実を知る。勇気をもらったケイたちはタイムズの記者と共に法廷へ出廷する。裁判では自由人権協会や議員27人の助言書が集められており、報道の自由を保護することや、民主主義の基本的役割を見失わばいため、ポストとタイムズ側の勝訴に終わった。「報道が仕えるのは国民であり、統治者ではない」との言葉を残して。ケイは言う、「いつも完璧じゃなくても最高を目指すのよ」と。
 
 

ラストとアメリカ政府闇の数年

まず本編ラストに照らし出されたニクソンの後ろ姿。件の事件での糾弾を受け、「もう二度とワシントンポストの人間はホワイトハウスに入れるな!!カメラマンもだ!!」との怒りの電話をする中に照らし出されるは”民主党本部”  警備員が周回中、不審者を発見し通報する。そこは”ウォーターゲート”だった、というもの。
 

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今作で取り上げられた1971年のペンタゴンペーパーの事件に続いて、翌年には”ウォーターゲート事件”が起こりニクソンの立場がどんどん~~をというわけです。流れを知っていればクスッと、ウォーターゲートの方だけ知っていればなるほどここに繋がるのね!と、知らないと何だっけこれとなってしまうわけですな。史実とか時代設定がしっかりしているものはやはり予習していくに限るなと改めて肝に銘じました。
 
そしてエンドロール後に表示された”ノーラ・エフロンに捧ぐ”の言葉。2012年に亡くなった脚本家であり、「めぐり逢えたら」「恋人たちの予感」「ユー・ガット・メール」などが代表作。女性の心情を描くことがとても上手い方で、「めぐり逢えたら」はもどかしい気持ちと切なさとで何度もやきもきさせられました。
今作の主演であるトム・ハンクスとメリルも彼女と仕事をしたことがあるのは勿論のこと、ノーラ自身が脚本家になる前はニューヨーク・ポストの記者として働いていたこともあったそう。そんな若い頃のノーラを作内に出すことで捧げた意志もあるそうです。しかもまさにウォーターゲート事件の調査報道に関わった新聞記者カール・バーンスタインとの離婚を描いた小説も書いているとのことで、実は色々な側面で今作にも関わっているんですね。
 
 

一番力強く見せたのはこの時代の「女性の在り方」

新聞社としての在り方や、トム・ハンクスの力強くもパワハラチックさをも感じる「典型的編集者」が板につきまくっているのは言わずもがな。裏のテーマとして女性にスポットを当てていると取れるポイントがいくつもあったように思えます。
 
まずは勿論メリル演じたケイ(キャサリン)の変化。父から夫へと引き継がれた家族経営の会社を守るため、代表となり業務を引き継ぐ。右も左も分からなく、女性社主の言葉など特に聞きもされない。そこに国家を揺るがす重要情報の告発から迫られる「報道の道を行くもの」としての使命と、古き友人を救いたい思いとで葛藤する様から醸し出される弱さの塩梅が流石の演技力でした。
 

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 また裁判に勝訴したあと、会場を出たタイムズの男性記者がマスコミの取材に答えるのをよそに、隅から帰りゆくケイ。表情には自信が現れ、ケイが通る様を見守るは女性たちが囲んでいて。まだまだ女性の立場が確立しきっていない時代に、強い意志で立ち会がり、思いを貫いた彼女の姿に勇気をもらった女性たちが彼女の背中を尊敬するシーンの1つかと。ベンの妻が「ケイが一人で何も出来なく立場だけ継いだ中で、これだけの決断を出来るようになったことは本当にすごい勇気だ。並大抵の覚悟ではない」と認めるシーンで、その言葉に打ちのめされて現実を知るベン(トムハンクス)の表情もよかったです。ポストの記者たちが4000ページの文書をまとめる中で、ベンの娘が手作りのレモネードを1杯50セント(元は25セントだったが、ベンの勧めで値上げ。笑)で提供してがっぽり稼いだところも、強かな女性像を強く感じました(笑)
 
直接的に示唆されるところは多くはないけれど、女性の目線や発言の1つ1つに変化の兆しを見せられているなと。 
 

権力に飲まれない報道と記者の信念

政府が隠し続けた裏の顔を露見する、というのがメインテーマであったわけですが。まぁ一番に思いつくのは現状の日本におけるモリカケやら(場合によっては相撲関連も)に似通っているなということ。そこをメディアの力で封殺したり権力に屈したりせず事実を伝えてくれる人が日本にもたくさんいたらなと思うわけです。
 
メディアの報道の偏りや隠蔽工作など、報道が叩かれることや情報を自ら取捨することが多くあるご時世でも情報を得るためには必要な機関の1つでもあるのは事実。そこで屈しない記者たちの熱さと信念の強さに安心して観ることが出来ました。
 
とはいえ、新聞社ものや政府の暴露をテーマにした映画では2016年のアカデミー賞作品賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」や、「消されたヘッドライン」(ラッセル・クロウ主演/2009)などなど有名作もある中で、比べて抜きんでていたかといえばそうではないかな…と。スポットライトが有名なので、やはりそこと比べてしまう人も近いなと感じる人も多いであろうことは致し方なさもあり。そしてこのタイプの映画はやはり前半の小難しさに頭がいっぱいになってしまうのも否めないです。アメリカ人特有?の、名前をかなり崩して愛称で呼んだり突然ちゃんと呼んだりするアレ、その分搭乗員物が増えたように感じるので時折しんどみがある。とはいえ、もう2時間経った!?と思うほどには後半の流れがよくてあっという間でした。主演2人の生かし方もさすがのスピルバーグ。9か月で歓声させたと考えれば本当によく出来ているかと。ただ同時進行で製作していた「レディ・プレイヤー1」の方に力が入っていたという噂ですが・・・こちらも今月(4/20)公開予定なので、期待したい所存です!!
 
 
 
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